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Interview

造園 / ブランディング

「景色をはぐくむ」という言葉が、組織を変えた。

植彌加藤造園株式会社

2026/5/12

植彌加藤造園 ― CI刷新プロジェクトの記録

創業約180年の歴史を持つ京都の造園会社、植彌加藤造園株式会社さま。南禅寺をはじめとする名庭を管理し続け、ランドスケープ設計や文化財庭園の利活用まで手がけてきた同社のCI整備を担当しました。プロジェクトを主導した広報担当の山田さまに、その経緯と組織に起きた変化を伺いました。

1|背景:バラバラだった「顔」を、ひとつにする

── まず、CIを整えようと思ったきっかけを教えてください。

広報担当:会社の規模が大きくなるにつれて、ロゴや社名を使用する媒体が増え、それぞれの担当者が独自にデータを扱うようになっていました。結果として、ブランドとしての統一感が失われていたんです。このままではお客様に不都合があるし、会社としてのイメージも築きにくい。そうした課題意識から、CIを整備しようと考えました。

【背景のポイント】

  • 媒体増加に伴うロゴ運用の分散と、外部から見た不整合の顕在化。
  • 明確な担当者が不在という組織的課題に対し、広報担当の入社を機に改善を開始

2|外部デザイナーを入れた理由:第三者の視点と信頼

── 社内でもデザインは可能だったと思いますが、なぜ外部デザイナーに依頼したのでしょうか。

広報担当:意見を集約するプロセスに外部の人がいたほうが、社内が「やる気」になるというメリットがありました。また、外部のプロを立てることで、広報担当として社内に働きかけやすくなる(統制をとりやすくなる)という意図もありました。

もう一つは、マサエさんとは以前から「無鄰菴」のプロジェクトでお世話になっていたので、私たちのスタンスを理解してくれているという安心感が社内にあったことも大きかったです 。

【外部依頼のメリット】

  • 意見集約のハブとして機能させ、社内の合意形成を円滑にする。
  • 既存プロジェクトでの信頼蓄積により、スムーズな連携が可能に。

3|プロジェクトの進み方:時間をかけて「関係性」を築く

── デザイナーを選ぶ際、何が決め手になりましたか?

広報担当:「話しやすさ」と「ニュアンスが伝わること」、これに尽きます。形にできないものを言葉で伝えて、それを形にしてくれる人が必要でした。私自身、文化的背景を共有できていないと話しにくい性質があるのですが、最初のやり取りで「大丈夫だ」という安心感がありました。

また、いきなりCIに取り組むのではなく、まずは無鄰菴の広報物という小さな案件から始めて、1〜2年かけて信頼を積み重ねてからCIへと進んだ流れは、結果的にすごく良かったと思っています。

無鄰菴 広報物イメージ
無鄰菴の広報誌、オリジナル・グッズなど

4|設計思想:「刷新」ではなく「再編集」

── 伝統ある企業のビジュアルを、現代的に整える際に意識したことは?

広報担当:「植彌」という名前と二重線のロゴ、これはどの社員に聞いても外せない核心でした。この核心を守りながら、現代のメディアに耐えられる表情へ整えていくことがプロジェクトの仕事でした。まず法被の背中にある染め抜きをもとにロゴを先に作り、そこからバリエーションを展開しました。伝統産業だからこそ、まったく新しいものを作るより、今あるものを洗練させる方が説得力が生まれます。

  • 変えなかったもの:「植彌」の名称と二重線を組み合わせた意匠
  • 変えたもの:タグライン、フォントバランス、現代の仕様に合わせた展開案
植彌加藤造園さま CI整備イメージ
左から:法被の背中の染め抜き ©植彌加藤造園、整備したロゴ、会社案内パンフ

5|実装の壁:ルールより「体験」が人を動かす

── 社内への導入で、難しかったことはありますか?

広報担当:難しかったのは「使ってもらうこと」でした。新しいものを導入するにはエネルギーがいります。「今までずっと使っていたフォルダ」から離れられない、というのは今もありますね。特に長く働いているスタッフほど、慣習への愛着があるのか、なかなか変わらない。

うちは非常にフィジカルな判断で動く会社なので、言葉でルールを伝えるよりも、新しいロゴが入った紙袋などの「実物」が納品されると、人の側が変わっていく。それは見ていて面白かったです。

【浸透のリアル】

  • 若手はすぐに馴染むが、ベテラン層は習慣からの移行に時間を要する場合も。
  • 明文化されたルールよりも、「実物(モノ)」による体験が浸透を促進する。

6|再定義:タグラインがもたらした変化

── タグライン「景色をはぐくむ」は、組織にどんな影響を与えましたか?

広報担当:私たちが提供しているのは「日本庭園」という形あるもの以上に、それを作る・管理する「目に見えない技術」です。この言葉ができたことで、研究やブランディングといった「直接庭に触れない仕事」にも価値を置きやすくなりました。「庭を納品している」という意識から、「景色を育てる技術を提供している」という再認識が社内で生まれたんです。

また、ビジュアルが整ったことで、若い世代への訴求力も向上しました。設計と施工の両方を手がける強みが視覚的に伝わりやすくなり、採用面でも良い入口になっています。

7|継承と未来:30年後を見据えて

── 次の世代への継承において、今取り組んでいることは?

広報担当:一番の課題は伝統技術の継承です。管理している庭での実地学習や「スキルマップ」による評価制度も定着してきました。

組織面では、労働環境の整備により力を入れています。残業を減らすこと、有給を取得しやすい環境をつくること。従来の働き方では、今の若い人の選択肢に入りません。30年後も新人がいる会社であるために、マインドチェンジを促しています。

8|同じ課題を抱える企業へのメッセージ

── 最後に、ブランディングに悩む他企業の方へアドバイスをお願いします。

広報担当:道筋をデザイナーと相談することが大事です。いきなり全部変えるのではなく、一つの商品や小物から始めて、社内の反応を見ながら調整していく。信頼できるデザイナーがいれば、そのプロセスを共に歩んでいけます。「選択肢はある」と思えるだけで、ずいぶん違うのではないでしょうか。

■このような状況に近い場合

  • 社内で表現がばらついている
  • 長年大切にしてきたものをどう整理すべきか迷っている
  • 採用や対外発信に課題を感じている

植彌加藤造園株式会社 WEB  無鄰菴 WEB

Designer's Note

植彌加藤造園さんとのお仕事は、無鄰菴という一つの庭からはじまりました 。最初から「CIを」という話ではなく、小さな仕事を重ねる中で少しずつ信頼をいただき、今があります。

プロジェクトで最も時間をかけたのは、「変えてはいけない要素」の特定でした。法被の文字のように「核心」を守りつつ、現代のメディアに耐えられる表情へ整えること 。そして、担当者の方が持っていた「景色をはぐくむ」という深い自己認識を、言葉とビジュアルで外へ繋いでいくこと。それが私の役割でした。

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