「良いデザイン」の条件は、かつての“目立つ”から、いまの“迷わせない”へ動いた。背景には、景気の変化と情報環境の変化の両方があると感じている。

デザイナーだと自己紹介すると、「デザインって正解がなくて難しそうですね」「感性が鋭いんですね、アートみたいなものですよね」などと言われることがある。

そう言われるたびに、アートとは違う気がするが、感性が大切なのは確かだ、と思っていた。実際、提案の最終決定はクライアントの好みに左右されることも多い。「これが唯一の正解だ」と言い切れる場面は少ない。

ただ、その「アートみたい」という言葉を口にしたのは、いわゆるバブルを知る世代の方だった。そこでふと、グラフィックとファッションは別物だと思っていたが、時代の価値観に強く影響される点では密接につながっているのかもしれない、と気づいた。

当時の主な情報源はテレビや雑誌だった。服装や髪型で個性を打ち出すことが良しとされ、ファッションでは高級さや新しさ、強い個性が評価されやすかった。ポスターなどのグラフィックも同様に、わかりやすさより「目立つこと」や「記号的で少し難解なこと」が“格好良い”と見なされる場面があったように思う。

一方で現代は、世代を問わず長く着られるシンプルでベーシックなスタイルが主流になった。長引く不景気に加えて、デジタルデバイスによる膨大な情報量が影響しているのではないか。

グラフィックも同じで、情報が溢れるいまは、まず「迷わせない」「読みやすい」「安心できる」が最低限の条件になる。その土台の上に、ブランドの方針やクライアントの好みが重なり、最終案が決まっていく。正解がないというより、「優先順位がある」という感覚に近い。

そして「迷わせない」の中身は、文字の可読性だけではない。英語併記やQRコードのように、必要な情報へ辿り着く導線まで含めて設計することが、いまの実務の“正解”になりつつある。

高齢化とデジタル化が進むにつれ、小さな文字を“おしゃれ”として成立させるのは難しくなった。読みやすい文字サイズや余白が重視されるようになり、「でか文字」が歓迎される場面も増えた。これは好みの問題というより、情報の受け取りやすさに直結する。

最初の話に戻る。「デザインって正解がなくて難しそうですね」と言われたら、こう答えるのがいまの自分にはしっくりくる。

実は、だいたいの正解はある。ただし、その正解は時代とともに更新される。